今の世の中、どんなことでもネットを渉猟すればそれなりの情報は得ることができる。だから物事の信憑性が高まったかと言えばそうではない。ネット界にはおびただしい数の「明らかな嘘」もたゆとうている。
例えば知床遊覧船の悲惨な事故について「ロシアの潜水艦に撃沈された」と言うツイートが拡散されている。
沈没した観光船「KAZU1」は船長11m、水面下は1.6mほどだ。魚雷は5~6mあり、少なくとも水面下10mを進行する。観光船を撃沈することは物理的に不可能だ。少し考えればフェイクだとわかるが、この妄説がかなりのスピードで拡散されている。拡散しているのは「予備校講師や家庭教師をやりながら歴史や国際関係などを研究する日々を送っている」50代の人物だ。

コロナ禍では「コロナウイルス」「ワクチン」「マスク」などについても陰謀説が流布されている。昔からおかしなことを言う人はたくさんいたが、ネット社会になってこうした根も葉もない妄説が多くの人に信用されるようになっている。その発信源には医師や知識人がいる。彼らは自説を信じているわけではなく、逆張りの珍説を唱えることで本を販売したり、セミナーを開催したりして巨額の収入を得ている。
さらに「妄説」は「妄説」とくっつきやすい。コロナウイルスのフェイクニュースを拡散する人の中にはウクライナ侵略でプーチンを支持する声を発信する人がたくさんいる。

本来全く関係がない「コロナ」と「ウクライナ侵略」を結びつけるのは「DS(ディープステート)」と言う言葉だ。アメリカには「闇の政府、ディープステート」が存在し、アメリカ、世界を裏で操っている。彼らは世界の人口を減らし、一部の人間による世界支配を目指している。トランプやプーチンはそれに抵抗するヒーローだ、みたいなストーリーだ。

荒唐無稽としか言いようがないが、いい年をした大人、それも高学歴で知的レベルの高い人が信奉している。日本では英国大使、防衛大学教授などを歴任した馬渕睦夫が「コロナ陰謀」を書き立て「世界を陰で操るディープステート(DS)が存在し、ウクライナ侵攻にも関わっている」と言い募っている。本気でそう思っているのか、商売でそうしているのかはわからないが、こういう「エリートの狂人」が日本や世界を惑わしている。

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今年4月、馬渕睦夫は出身地京都府南丹市「文化観光大使」に任命された。恐らくは地元の同級生や後援者が推挙し、行政は、その輝かしい肩書だけで任命したのだろうが、南丹市自身は3月に「ロシアによるウクライナへの侵略に対する抗議声明について」と言う声明を出している。その翌月に「ウクライナ侵攻はDSの陰謀」という人物を「文化観光大使」にしたわけだ。

古谷経衡さんが南丹市役所に電話取材しているが、広報担当者は「戦争についての肯定否定では無しに、ご本人(馬渕氏)様の経歴だけで考えさせてもらっているだけなので」と答えている。
推挙する人がいて、肩書が立派だったら、どんな人でも「自治体の顔」にしてしまうのだ。
このあたり日本の行政の「手は動かすが頭は動かさない」という致命的な欠陥が露呈している。山口県では24歳の男に4000万円余の金を振り込んで返してもらえずに大騒ぎになっているが、これなども「自分の頭で考えない」欠陥が露呈したと言えるだろう。

少し前まで創業者の吉田嘉明が根拠なき人種差別発言をしていたDHCは、高知県南国市や熊本県合志市など地方都市と包括連携協定を結んでいた。吉田嘉明はかなり前から暴言を振りまいていたが、各自治体は全国的な大ごとになるまで協定を見直そうとはしなかった。

京都府南丹市は古谷さんの取材の後で、馬渕睦夫の記事を削除した。これまた「自分の頭で考えず」世間が騒いだからそうしたのだ。

日本の公務員の致命的な欠陥は、自身が組織の一部になってしまって「自分の意見を一切述べない」「自分の考えを持たない」ようになることだろう。無責任で不誠実な姿勢が「公務員の処世術」になっていまっている。ここに「妄説」が入り込む余地が出てしまうのだ。

ネット社会の進展とともに、一人一人が「何が正しいのか」を判断すべき時代になっている。それができない人の心の中に「ディープステート」は入り込んでくるのだ。



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